来 歴

不在の論理


互に抱きあつている
昼と夜の
図式めいた風景のなかを
かわいた運河と
眠れない太陽が通つて行く
その後をつけようとして 私は
劇がはじまるなとおもう 私の劇が
はじまるときはいつも静かだ
誰も先を急ぐので
私はゆつくりと行く
世界に先まわりして走り続けたあげく
私の存在がすりへつてしまうなど
私には似つかないことだ
私の今日がまだ
あちこちの町角で長い影をひきとめているのに
世界はいらいらと夜をいそぎ
次の一日の用意をはじめるのだ
互に抱き合つている
私と私の影から
私だけが剥がれて行き
私は疎外された分だけ自由な身の上になる
かわいた運河は みたされない
欲望に似ているし
眠れない太陽を みつともない
私の自尊心に似せてもいい
私は私の不在を証明するために
私の存在をなにものかにすりかえねばならないのだ

原文のまま 1行目の「抱きあつている」が18行目では「抱き合つている」となっています。

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